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2010年全日本選手権ロード 新しい勝利を目指して

土曜日の豪雨から一夜明けた27日日曜日。小雨のぱらつくレース会場は、全日本という年に一度の独特な雰囲気に包まれていました。
ホームスレート付近には各チームのピットが置かれ、どの選手も緊張感をもった表情でスタートの瞬間を迎えようとしています。

毎年トライし続けやっと手にした悲願の全日本チャンピオン。その冠は前日土曜日までで終わり、この日を境に新しいチャンピオンが誕生することになります。

連覇は決して簡単ではない。そして守るものでもない。攻めなければ決して手に入らないものです。去年までの「ここを越えなければ」という分かりやすい状況とは違った雰囲気に、正直どんなレースになるのか、どんなレースをしようとしているのか?まさに「蓋を開けてみるまで分からない」状況だったのかもしれません。


しかし愛三レーシングのピットは「いつもの感じ」。いい緊張感といいリラックスです。
彼らにはいつでも明確な目標があるから揺るがない。だからレースは違えども今までやってきたことをぶつけるのみ。
今日は8人全員が「青いジャージ」で走る新しい一歩の日です。


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そんな中、今年もサポーターの皆さんから「千羽鶴」が贈られました。
去年一部のファンから声があがり作られた千羽鶴。選手の走りを後押しし優勝を願う気持ちは今年もっと広がり、地元愛知のサポーターさんが各自折った鶴が持ち寄られ一つの千羽鶴になりました。
(結果、「千羽以上鶴」になりました!)

それを見つめる西谷選手。表情はとても穏やかです。


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選手が出走サインを待つ中、チームニッポの宮澤選手がいました。
「この全日本に絶好調を持ってこられる人なんていないですよ。並大抵じゃないです。」と、それでもこの笑顔で話してくれました。
どんなプレッシャーや周りの声にも惑わされない確固とした信念を、話していて感じました。


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この全日本を最後に現役を引退するシマノレーシング野寺秀徳選手は、
たくさんのファンに声をかけられるたびに人懐こい笑顔で応えています。


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でもふとした瞬間に見せる表情に、勝利に、最後の走りに、全てをかけようとする意思がありました。
「まさかの優勝とかやめてくださいよー」と冗談ぽく声をかけると
「いや~どうせなら最後まで面白いことしていたいじゃないですか~」との答え。
ゴール勝負でその答えを有限実行にした野寺選手は本当にスゴイ人だと思ったのでした。


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11時スタートの予定にあわせて各選手がアップに出かけていきます。
スタートまでは選手自身が自分のペースで気持ちを高める時間。
このゾーンに入ったらもう後は見守るのみです。

いつもはなるべく選手たちから離れているのですが、自分自身もどんな感じでスタートを迎えたらいいのか分からなくなってしまって、ピットの中で選手たちの話を聞いていました。

リポートにもあったように今年のエースは、西谷選手ではなく盛選手です。
トラックで世界と互角に戦う盛選手ですが近年ロードでもエースを任されるようになりました。
愛三では年間出場するレースでエースを定めてシーズンインするので、このオーダーはかなり早い時期に決まっていたと思います。


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これまでは西谷選手の優勝だけを目指しアシストに徹してきた盛選手。ロードで戦うことに関して人一倍チームの和を大切に身を粉にできる選手が今年エースを務めることになったのです。
ピットでは、西谷選手、別府選手と最後の確認をしていました。もれ聞こえる会話に胸が苦しくなってきます。同じ全日本でも役割が変わることでその重みが全く違う形で現れるのです。


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早朝からの雨が嘘のように日差しが戻り気温が上がった11時15分。予定より15分遅れでレースが始まりました。スタート地点前列には昨年の上位選手がズラリと並びます。
直前まで隣の選手と笑顔で話す姿も見られますが、カウントダウンが始まるとどの選手も一斉に笑顔が消え一気に集中が高まります。


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この後私は山岳ポイント(展望台)に移動し撮影を進めました。
ゆるいカーブと坂を経てここを境に下りに入ります。アタックポイントでもあるので12.3kmの周回を待つ間に展開はめまぐるしく変わり、次にやってくる選手たちの顔ぶれが全く変わっていることも多いです。

到着して最初に目にしたのは既に決まった20人の逃げ集団。この中に別府選手の姿がありました。そして次にやってくる集団には愛三の選手全員の姿が。
集団はまだ長く、選手も先頭付近、中盤、そして一番最後に盛選手と位置ばバラバラですがまだレースは始まったばかり。

「アイサンの走り」。それは他チームの動きをあてにはせず、真っ向勝負でレースの流れを作る走り。集団をリードし人数をふるいにかけ、終盤に選手を残しエースでゴール勝負に持ち込む形を自ら作ること。
その「正統派」な走りにトライする姿を見ることができました。


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レース展開はレースリポートをご覧頂くとしてここでは選手たちの様子を紹介したいと思います。


別府匠 Takumi BEPPU
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序盤の逃げに乗った別府匠選手は、序盤から中盤にかけて表情は淡々としていていました。
これが国内初レースになったのですが、これまでの数年間はケガなどに悩まされて全日本でも納得のいく走りができず悔しい思いをしていました。
今年アジアツアーで走りを取り戻してきただけに今日のアシストに期待がかかります。
別府選手のブログで全日本を振り返っていますのでそちらをご覧頂ければと思います。後半戦での活躍に期待したいです。


松村光浩 Mitsuhiro MATSUMURA
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松村選手は愛三2年目の全日本。去年は移籍一年目で優勝を味わいましたが、今年こそがそのアシスト力を問われるレースになったのかもしれません。
2連覇は決して「守る」という意味ではないと思います。攻めなければ手に入らない。大学の先輩でもある盛選手にレース前に言われた言葉は「最後のジャンが鳴るまでレースを絶対降りるな」。
表情にあまり出さない選手ですが集団の中で必死でくらいつく姿がありました。


品川真寛 Masahiro SHINAGAWA
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品川選手は昨年チームが優勝したとき、呉の病院に入院していました。既に広島入りしていた本番2日前に突然盲腸を発病し入院・手術を余儀なくされたためです。
手術が無事終わった全日本当日、品川選手に戦況をメールで何度も送っていました。レースは走れなかったけどチームの一員としてレースを感じていたと思います。もどかしい気持ちと共に。
西谷選手が優勝しメールをしようとしたのですが、手が震えてできなくて別府選手にかわりに電話してもらったのを覚えています。
この盲腸の後遺症は今年まで続いてしまっていますが、今年は去年の悔しさを晴らすべく走りでエースをアシストします。残り2周回まで前を逃げる西谷選手、それを追う集団に位置するエース盛選手の傍でサポートし続けました。


福田真平選手 Shimpei FUKUDA
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今年愛三レーシングに移籍した福田真平選手。レースでは綾部選手とともに集団前方に位置しコントロールに徹しました。体調を崩していた時期もありましたが、この日の朝顔を合わせたときの表情は明るく、体調も良さそうな雰囲気でした。
チームとしてレース展開を作るには並大抵の力では叶いません。まさに「捨て身」になれる選手がいなければ成し得ないのです。


綾部勇成 Takeaki AYABE
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綾部選手はこの日ピットでは口数も少なく、集中しているためかと思っていましたが山岳で走りを見たとき体調が悪そうだと感じました。
いまや愛三には欠かせない、守護神と言っても良いくらいここぞの勝負で頼りになるのが綾部選手。レースを冷静に見極め捨て身になりながらも最後の勝負にからむその走りは、キャプテンとして走りと言葉でチームをけん引する動力となっています。

この日は後半の勝負どころで力を発揮できるよう走るオーダーでしたが、本調子を取り戻せず「やるだけのことをやって後は託す」と今できる全てをペダルに込めていました。序盤から明らかに苦しそうだったにも関わらず、何度選手たちを引き連れて坂を駆け上がってくる姿を見たでしょう。
聞けば12.3キロ全てを一人で引いていた周回もあったそうです。


西谷泰治 Taiji NISHITANI
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西谷選手は今年「サブエース」という役割を託されました。
常にエースとしてレースを任されるからこそ、アシスト選手の思いや走りを無駄にできない重圧があるからこそ、アシストに回ったときは徹底的にチームのために動く。
そんな西谷選手が全日本で出した答えは、前で攻めながらもチームに有利な展開に導くこと。昨年の覇者がこのような動きをすれば当然レースが面白いことになるでしょう。しかしそれは自身にとっては危険な賭けでもあります。
自らを消耗しサブエースとして勝利を勝ち取るよう切り替えなければならなくなったときに、どれだけ力を残せているか?

最後まで先頭に残っていましたが最終周回で脚を攣り、4人が抜け出したアタックについていけなかった。それでも優勝が決まった12秒後に取り残された集団から一人歯を食いしばってゴールに戻ってきました。


盛 一大 Kazuhiro MORI
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今年エースを任された盛選手。トラック競技で世界と互角に戦う盛選手ですが、近年ロードでもエースを任されるようになりました。
ロードでも勝利を経験している盛選手ですが、そのエースの舞台が全日本となればその重圧は計り知れません。レースではアシスト選手に守られながら周回を重ねていました。レースが終わってからゴールの先に赤星マッサーといた盛選手。声をかけられませんでした。
この全日本を振り返り自身のブログで報告があると思います。そちらをぜひご覧いただければと思います。


鈴木謙一 Kenichi SUZUKI
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最後に鈴木謙一選手のことを書きたいと思います。
愛三レーシングはこの前半戦、気温が40度を超える国、過酷はレース条件のアジアでのレースに数多く参戦してきました。選手8人が様々なレースに参戦し、チーム編成も異なるレースの中で、自身の役割と走りを見つめながら経験を積んできました。
アジアツアーの世界に対するレベルは、決して低いものではないと思います。
そんなアジアツアーを経て、愛三レーシングにとって欠かせないアシスト選手へと成長を遂げてきた鈴木選手。盛選手のサポート役に最後の最後まで徹し、リザルトに名前が残らない完走者となりました。
またケンケンの走りで泣かされてしまいました。


今年の優勝は、チームNIPPOの宮澤崇史選手でした。
ゴール手前20~30mの辺りにいたのですが、実は最後のゴールスプリント、ノデチンばかり見てしまっていて宮澤選手の優勝したところをまともに見てませんでした・・・。現場にいて見てないってどういうことっすかね?反省です。
写真で見るとまさにチーム戦の縮図でしたね。
真っ白なチャンピオンジャージ、また取り返したいですね。


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シャンパンファイトは撮れました。


今年の広島は本当に悪天候で、いつになく天気を気にかける日々でした。
土曜日は土砂降り、日曜日も女子のレースの時は雨脚も強くなる時間帯もありました。でもエリートの前にはあがって、日差しも出てきました。不思議な天気。
決して近いとは言えない広島、そして悪天候にも関わらず、今年も中央森林公園には愛三レポーターズの方が応援に駆けつけてくださいました。


あるチームのある方(笑)も友情出演!
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手作りの横断幕ありがとうございました
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実は今年の千羽鶴には「アイサン折り紙」が使われていました
来年はこれで皆さん折りますか?
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photo:Tsubasa


選手スタッフとともに
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事前に募集させていただいた応援メッセージ、会場にはいけないけれど応援してくださっていたファンの皆様、本当に本当にありがとうございました。
こうしてたくさんの応援に支えられている、全日本は最もそのことを実感できる日でもあるのかもしれません。
今年はタイトルを逃しましたが再び愛三からチャンピオンが誕生する日を目標に、チームは後半戦も一つ一つのレースを力一杯走っていってくれることと思います。
どうか後半戦も応援宜しくお願いいたします!


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レースを終えた西谷選手。手には小さなお花たち・・・。広島が地元の西谷選手、姪っ子さんがレースを見に来てくれプレゼントしてくれたそうです。
来年また、最高の笑顔が咲きますように。
そんな願いを込めて西谷選手の言葉で締めくくりたいと思います。


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「最後、NIPPO佐野選手がアタック。彼も逃げ続けた1人だったのでそれほど力強いアタックではなかったが、足が攣っていて着いていけなかった。
全日本は去年一度勝つことができた。それは念願だったけど、今年は一度勝っているからこそ同じ勝ち方で狙うつもりはなかった。皆で攻めて攻めて納得させる走りをしたかった。」

(白いジャージ獲られて青に戻っちゃったねと声をかけると)

「これでまたチャレンジャーに戻ります。でもそれでいいんです。チームメイトと同じ青のジャージを着て、また新しい気持ちでチャレンジしていきたい。」

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